『スクラップ・アンド・ビルド』とは?
『スクラップ・アンド・ビルド』とは、作家羽田圭介による文学小説で株式会社文藝春秋より2018年5月10日に出版されました。第153回芥川賞を受賞しました。
どんな内容?あらすじは?
『スクラップ・アンド・ビルド』は、無職で単発のアルバイトをしながら、就職活動をし、実家ぐらしの健斗と、介護状態の祖父との奇妙な共同生活を綴った純文学小説です。
川上弘美の『蛇を踏む』に比べて正統派の純文学のため一般的にどんな方でも読みやすい内容となっています。
ネタバレ
本書の基本的な構成は、時間を持て余している20代の孫である健斗と、老齢で死に間際でありながら、介護度はそこまで高くない祖父との関係性を描いた作品です。
健斗とその母親、そして祖父の3人ぐらし。主に料理は母親が、たまのお風呂を健斗が担当しているが、祖父は食事もできるし、怒られながらも片付けもする。けれど毎日家の中で過ごす真綿で首を絞めるような小さな苦痛を感じ、孫や娘に迷惑をかけまいと思いながらも、介護を受ける被介護者の精神性を持っている。
健斗は健康であり、健全な肉体を持ちながらも、ままならない日々と沢山の時間を持ち余しており、彼女とデートしたり、治験を受けたり、就職活動をする中で、祖父の介護をみるという日々を過ごしている。
ままならない日々の苛立ちを時折祖父にぶつけるが、特段虐待をするといったシーンはないので、人間的な苛立ちを弱者へぶつける社会の構図に近いものとなっています。
変化
本書の急展開は、そんな健斗が筋トレを始め、肉体的にも精神的にも強くなっていく辺りから、急激に面白さが高まります。
起承転結でいえば、「転」と言えるでしょう。
逆に「起承」は、社会的にもまた弱者である健斗と、祖父との同レベルの視点での物語のため、読者は別の意味でストレスを感じるでしょう。
健斗が筋トレをし始め、徐々に快活になるにつれ、祖父との対比が光を帯び、生きることの意味、死に向かう人間の弱さ、そして人生とは誰もが煌めく時間を過ごしていたことが鮮明に浮き彫りになるのが見事でした。
徐々に新しい世界へ進んでいく健斗と、弱さを一層に増しながらも強かに生きる祖父。
2人の対が、盤から離れたとき、本作は物語を終えます。
まとめ
「プロペラが視認できるほどにまで近づいてきたセスナは、いつのまにか雲に隠れ、見えなくなっていた。」という一文で物語が終えます。
青い空と、輝く太陽、そして人生をセスナに例えた、素晴らしい締めの一文でした(なぜセスナなのかは本書をお読みください)。
とりあえず何か読みたい方や夏休みの読書感想文の作品選びに悩んでいる学生におすすめの一冊です。