『ミニシアター再訪(リヴィジテッド)』とは?
『ミニシアター再訪(リヴィジテッド)』とは、1980年から2023年の映画や映画館、ミニシアターにまつわる映画の歴史をまとめた本です。映画評論家の大森さわこ氏の執筆により2024年5月30日より株式会社アルテスパブリッシングより出版されました。
どんな内容?あらすじは?
『ミニシアター再訪(リヴィジテッド)』は、1980年代から映画を鑑賞し、ライターやジャーナリストである大森さわこ氏がまとめた映画バイブルと呼べる内容となっています。
まえがきが、ミニシアターの旅のはじまり
第一章が、未知数1980年代
第二章が、ブーム到来の1990年代
第三章が、変化する2000年代
あとがきが、再訪(リヴィジテッド)の旅をおえて
と合計5章で構成されています。
とはいえ、602ページに渡る蔵書。値段も定価3500円と高額です。
『ムーラン・ルージュ』や『反=恋愛映画論』のような内容となっていました。
ネタバレ
2024年、現在の映画業界は、日本映画も、アニメーションも、洋画も、韓国映画も、ドラマも盛んに観られています。
その背景には、デジタル化によるVODで映画が家でも見放題になり、映画を観る機会が増えたのもあるでしょう。
一方で、過去から現在まで、映画の変遷が、今に至る映画業界へと繋がっていることでしょう。
レイトショーや海外作品の買付から上映まで
1980年代は、日本映画の作品数もそこまで多くなく、昔ながらの任侠映画や寅さんといった作品が主流でした。
あとは、日活映画など大人向けの作品ですね。
その中から、アメリカのハリウッドや、令和の今では当たり前となっているフランス映画など外国の作品の上映権を配給会社が買付を行い、
レイトショーやミニシアターで上映を始めたのがキッカケのようです。
今のようにスマホやインターネットがない時代。作品の売り出し方としても雑誌『ぴあ』や『シティーロード』などのタウン誌で紹介されたり、他の映画作品の前に予告を流すなど、認知される方法が試されていた時代です。
印象的な映画ポスターも
本書でも語られているとおり、当時は「マーケティング」という言葉は誰も意識しておらず、自由に宣伝されていました。
ポスターやチラシを、カフェやデパート、レンタルショップに貼らるのもその手法の一つですね。
そのため、以下に目に留まるのか、印象を残すのかが重要で、日本版のチラシやポスターもこの頃から作らえていました。
カルトムービーやホラー映画、ドキュメンタリーなども盛んな時間
映画は、ドラマや物語だけでなく、ホラー映画やカルト・ムービーも人気でした。「フリーク」という言葉もこの時代から作られたようですね。
特に、原一男監督による『ゆきゆきて、神軍』は、大ヒット。
当時の政治的な思想や、社会と、これまでに観たことのない作風に、上映に上映を重ねて口コミで広まり、大ヒットに繋がりました。
とにかく、冒頭から観たことのないような衝撃的展開と生々しさが連続し、「とんでもない作品を観始めたな」という印象。
席を立ちたいのに、立てない怖さ。
台本のあるドラマなら、怖くないのに、ドキュメンタリーならではの、現実的な恐怖にずっと目が離せません。
ビルや大型デパートの立て続けに建築
本書に戻すと、ちょうどこの頃、今で言う六本木ヒルズのような「WAVE」という期限付きのビルが登場しました。
今では当たり前となった、デパート×映画館も、当時は映画館とは別物でした。
六本木ヒルズを建てる話は1980年代からあったようで、その前に期限付きのビルとして「WAVE」が登場。
近代的な総合ビルを作ろうということで、映画館なら「シネ・ヴィヴァン」があり、レコードショップや、録音スタジオ、あとラジオ局のJ-WAVEもあったのかな。
とにかく、バブルの時代もあり、先鋭的でキラキラ弾けるような輝かしい時代だったのでしょう。
人々は、仕事が終われば、六本木のクラブだ、レイトショーだ、なんだと遊び回り、不眠不休の遊びも仕事も活気に満ちた時代。
この時代に、総合的なビルが生まれたことが、後のパルコやそれこそ六本木ヒルズのような人が集まるエリアが作られていったのでしょう。
うーむ、めちゃくちゃ感慨深いですね。
熱が消えていく1990年代
90年代に入ると、バブルも弾けて映画産業は斜陽化していきます。
もちろんその中でも、フランス映画の『アメリ』やソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』、アン・リーによる『ブロークバック・マウンテン(Brokeback Mountain)』などヒット作は生まれました。
その理由としても本書で語られており、一つはミニシアターの興行形態が変わったこと。それまでは1館でロングラン上映が可能だったのが、近年は複数のミニシアターやシネコンで同時上映ができるようになったため、どの上映画館も平均的な入となったこと。
また、近年でもインターネットでチケット予約ができるようになり、映画館の前に並び入場する必要がなくなったこともあります。
さらに、ネットの普及によって、映画を撮る側も、フィルムじゃなくても済むようになったことや、デジタルで撮影できる気軽さもあり、特別感のあった映画が、庶民的になったことも考えれます。
でも、これって、アイドルもそうですよね。
昔は特別なスターだったアイドルが、今では誰でもなれる可能性をもち、身近な存在に。
しかも、ある程度したら、アルバイト感覚でやめていくような風潮も。
低コスト、低品質(というと失礼ですが)な供給が、過熱した熱を冷ましていったのでしょう。
2000年代に入り、映画館も変わった
2000年に入り、映画産業の斜陽化に進む、映画館も変化していきます。
カフェが併設されたり、コミュニティとしての映画館の存在となったり、または、ネットで配信したり。
顕著なのが、コロナ禍には、<Save The CINEMA>となり寄付や人々が助け合うようになりました。
映画はアートであり、文化であり、人々の想いの架け橋となっているのです。
まとめ
膨大な情報量と取材、インタビューがまとまった『ミニシアター再訪(リヴィジテッド)』。
過去から現在までの、ヒット作やムーブメントを起こした作品を、一つひとつ紹介されており、読み応えがありました。
懐かしいあの作品や、深夜にテレビ東京で放映されていた映画(「モールス」とかもそうですね)の裏側に、こんな仕掛けや時代のニーズがあったんだと、再発見しました。
映画好きの人におすすめの一冊です。