『明日のメディア 3年後のテレビ、SNS、広告、クラウドの地平線』とは?
米国エモリー大学でMBAを取得し、高知工科大学で博士号を取得した水墨画家としても活躍している志村一隆氏の著書。ディスカバリー・トゥエンティーワンから2011年に出版された、メディア論に関する本です。
どんな内容?
第一章「4億代のメディア消費を、誰がビジネス化するのか?」を皮切りに「コンテンツのプラットフォーム」「コミュニケーションを担うソーシャルメディアの競争」「アドテクノロジーがメディアビジネスを変える」「ソーシャル化は、コンテンツの直接販売モデルに行き着く」「スマートテレビと表現論、そして自立した個の誕生」そして「非連続なメディアの未来と脱工業化社会」の合計7章で構成されています。
スマホや動画サービス、さらには最近よく目にする機会が多くなったGAFAの話題など、2011年に出版されたものとは思えない情報と分析量、さらに読みやすい説明の書き方と、読み応えのある内容となっています。
ネタバレ
メディアの源流は、もともとは雑誌が郵送される米国に仕組みでした。
広大な大地と広い地域、州を持つアメリカでは、欲しい雑誌があれば、注文をすると、自宅やアパートの部屋の前に届けられているというもの。現在のアマゾンの宅配サービスですね。
定期購読が主流で、近くに本屋がない、あっても車で1時間はかかるなど、日本の地方でも見受けられるインフラ・地域性の問題を解決するサービスとなります。
そして、面白いポイントは、出版社は、雑誌を直送する時に、エリアや年齢、職業、性別などの読者の情報を博し、その属性やデータを活かして、不動産や飲料、車といった広告を出す企業に売り出していたのです。
今の時代のビッグデータやデータサイエンティストが行う分析と同じですね。
進化し、フリーペーパーへ
徐々にインフラが整い、地域も本屋やお店が増え、直送自体が減っていきました。しかし都市部では、代わりに無料で読めるフリーペーパーが流行りだします。
無料で読めるため、どこにでも置くことができ、広告を載せて不特定多数の人たちに届けるのです。
さらに、進化し、フリーペーパーが電子書籍、電子出版、電子雑誌へと姿を変えて、メールマガジンなどで電子メールで読者の元へ届くようになったのです。
データに変換されるコンテンツ
このような変遷を得て、コンテンツはデータ化され、雑誌や書籍は本からウェブへと姿・形を変えていったのでした。
デジタル機器の広がり
コンテンツが進化することで、コンテンツにも広がりが行われました。
iPhoneの登場です。ブラックベリーや日本でいうガラケーなど携帯電話はありましたが、PCと同様の機能やネットーワークへ接続できるスマートフォンとしてアップル社よりiPhoneが出たのは革命的でした。
アップル社は、iPhoneやiTunesを利用し、固定客をどんどん確保していったのです。
しかし、いくらデジタル機器があっても、ユーザがコンテンツへたどり着く手段がなければ、意味がありません。いわゆる道ですね。そこで活用されたのが、そうGoogleです。
デジタル機器のiPhone、検索のGoogle。GAFAのGAができたのです。
対抗 Androidスマートフォンの登場
しかし、Googleのすごいところは、検索のプラットフォームで終わらないところです。iPhone同様にスマートフォンのOSであるアンドロイドを開発。そしてそれを無料で配布したのです。
すると、メーカーが端末開発に乗り出したのです。
ソニー、NEC、富士通、SHARP……日本だけでなく世界でもサムスンやHuaweiなど多くの企業が参加。
そうなると、どうなるでしょう?独占状態だったiPhoneのシェアがAndroidへ置き換わったのです。
Googleが各企業からライセンス費をもらっているのかは不明ですが、無料で配布しているはずなので、金銭的なやりとりは発生していないはず。
では、Googleのメリットはなんでしょう?
検索による広告収入の活性化
そう。検索による広告収入が高まるのです。
ご存知の通り、Googleは検索をすると、広告が表示されます。企業から広告費をもらい、検索サイトやコンテンツページで表示されるわけです。
iPhoneの場合、プリインアプリとしてSafariが入っており、その管轄内だとGoogleは手出しができません。そこでAndroidを広めることで、Googleの検索数を高めて、必然的に広告費を上乗せさせたのです。
上手いやり方ですよね。
さて、これは、何かというと、雑誌と広告、フリーペーパーと広告、メールマガジンと広告、検索と広告と、コンテンツの掲載は変わっても、いつの時代も広告との強い結びつきを示しているのです。
脱広告
テレビのドラマやバラエティ、番組を見ていると、途中でCMが入ります。これがテレビが無料である理由ともなっており、各番組の制作費は、広告費で賄っているのです。
しかし、視聴率の低い番組はどうなりますか?そう、打ち切りになるのです。スポンサーが離れ番組を継続することができなくなってしまいます。もしくは出演者が不祥事を起こすと、提供している企業にも悪いイメージが起こり、同様に提供を外れたりするわけです。
こういった事情から広告という、スポンサーは番組やコンテンツにとって神様のような存在であり、視聴率が悪い、タレントが不祥事を起こしたなど、正当性のある降り方であれば納得が行きますが、ドラマの内容にケチをつける、もっとプロモーションしてほしい、決済権を持つ担当者が気に入らないなど、理不尽な提供も少なくありません。
これは、雑誌やオンラインコンテンツも同様で、発行部数やPVなどで左右されるだけでなく、決済タイミングの問題で予算が降りず、広告費が発生しないといったことも同様です。
ハーストマガジン(Hearst Magazine)社の決断
雑誌Elleなどを発行するハーストマガジン(Hearst Magazine)社は決断の時でした。広告主の顔色を見て、生きていくのか、もしくは自前の物販で生きていくのか。
結局の所、消費者、読者、ユーザに対して会員制を儲け、また物販やコンテンツを販売する方向へ舵を切ったのです。これは一つの革命的でもありました。
広告主ではなく、移り変わりのある読者、そしてファンからお金を取るわけです。
消費者が選ぶ、コンテンツ
雑誌やテレビに限らず、映画や音楽も無料や定額費用を払うことで数多くのコンテンツを楽しむことができるようになりました。
しかし、アーティストのファンはおり、デジタル化された物ではなく、ライブへ行き空間や生の音楽を堪能する。アイドルの握手会へ行き、直接触れ合う、交流する機会と、コンテンツがデジタル化されてもビジネスの価値として失われないモノが残っているのです。
そして、エンドユーザーは自身で好きなモノを選択し、お金を払うことができるようになったのでした。
マイスペースからフェイスブックへ
好きなモノの一つとして、デビュー前のアーティストやインディーズで活動をしているバンド、若手クリエイターが表現の場として人気を博していたMySpaceを憶えていますか?
MySpaceはそれこそ、ユーザが好きなアーティストへ直接お金を払うことができ、応援、そして直にコミュニケーションが取れる場でした。
MySpaceは一時は2億人ものユーザを抱えていたにもかかわらず、現在ではサービスは停止、メインストリートから外れてしまいました。
それはなぜでしょう?
フェイスブックの登場です。
MySpaceの特徴は、自分でマイページを持てることです。日本でもMySpace後にミクシィが登場し、ここのキャラクターを活かした画面ができていましたね。そしてそれを活用したのがフェイスブックだったわけです。
オープンとクローズ
ミクシィが人気を無くした一つのキッカケに、招待制から自由に個人で参加ができるオープン性担ったと言われています。
当初は、ミクシィをすでにやっている人に招待されないと参加できないというルールで、それがコミュニティとしての力を発揮していたのです。
同じようにクローズドで活躍していたのが、MySpaceでした。
MySpaceは、Photobucket社が広告を始めたのを制限を入れたのです。フォトバケット社はMySpace内写真に加工ができるサービスを展開しており、後にMySpace社が買収しました。
このようにSNSとしての王道戦略ができていない時代だったのもあり、各社試行錯誤で進めていたのでしょう。
フェイスブックは先行者の事例を活かして、最初から誰でも参加できる。参加者はビッグデータから繋がりを見つけ、中学生や高校生時代の友人たちと繋がれる。彼ら彼女たちの投稿コンテンツにいいね!がつけられるなど、コンテンツと活性化を一気に行ったのです。
さらに、MySpaceが失敗した広告管理についても、ユーザが好きに広告を作りは発信できるという形に成功。フェイスブックは、ユーザは好き勝手に投稿をし、必要であればビジネス広告を出し、瞬く間にSNSのスターとなったです。
Google VS Facebook ジンガという武器
次に戦いの火蓋となったのが、GoogleとFacebookの戦いです。
Facebookはコミュニティですが、検索をしないとたどり着けません。Googleは折角検索し回遊しているユーザをFacebookに流して、Facebookに広告費を取られたくないのです。
そこでGoogleは、Androidと同じように、「オープンソーシャル」を作成、発表し、参加表明しているソーシャルメディア同士が同じ言語で同じマイページを作れるというサービスです。
これにはミクシィも参加していました。つまりミクシィで作ったものを、日本語でFacebookへ横流しできるというわけです。非常に画期的なサービスだったのに、結論を言うと、Facebookに負けてしまったのです。
Facebookが勝った一つの理由として、2億人を抱えるジンガというカジュアルゲームがポイントでした。
ジンガやポーカーは、Facebook上で遊ぶことができ、カジュアルに楽しめるのでユーザに好評です。スマホで遊んでいる時や、一人で遊んでいる時、友だと一緒の時「これ面白いよ」とジンガのお誘いを行うことができたのです。
つまり、Facebookにまだ加入していないユーザをジンガの招待メールを使って、検索せずとも人を集めることができ、成功に至ったのでした。
スイッチングコスト
スイッチングコストとは、ミクシィをやっていて、友達がFacebookをやっていたとしても、移行するのが面倒で、コストがかかるため、ユーザは安易に移動しません。しかし、Facebook内でジンガなどの面白いコンテンツがあったらどうだったのでしょうか。1回くらいは、と会員登録をして、遊んで、友達や旧友と繋がり、いつしか、ミクシィじゃなくていいじゃん。となってしまうわけです。
まとめ
メディアの進化の過程が、事細かく解説され、とても読みやすい一冊でした。
他にも、NetflixやHuluなどの動画コンテンツ・サービスや、インフラサービス(いわゆるキャリア)のサービスなど、幅広いメディアに関わるビジネス展開について網羅されています。
メディア業界に入りたい方や新しいビジネスを考えたい方まで、『明日のメディア 3年後のテレビ、SNS、広告、クラウドの地平線』はおすすめの一冊です。
2019年の現在では、新しいSNSとしてインスタグラムやティック・トックなども登場し、これからどんな勝ち負けが行われていくのでしょうか。また新しいSNSが生まれてくるのでしょうか?