『他人の始まり 因果の終わり』本の感想、レビュー、あらすじ、ネタバレ

『他人の始まり 因果の終わり』本の感想、レビュー、あらすじ、ネタバレ 書評

『他人の始まり 因果の終わり』とは?

『他人の始まり 因果の終わり』とは、ラッパーであり音楽家、ミュージシャン、プロディーサーでもあるECDが2017年に河出書房新社より出版された自伝的小説です。

どんな内容?あらすじは?

『他人の始まり 因果の終わり』は、写真家の植本一子と結婚したECDこと石田義則の家族のこと、父親のこと、亡くなった母親のこと、そして急逝した弟のことを綴った内容です。ECDのことを知らなくても、普遍的な家族のあり方や、誰にでも訪れるであろう出来事をエピソードにしているため読みやすいのが特徴です。

『成り上がる女の法則』や『投資家の父より息子への13の遺言』に近い内容となっています。

ネタバレ

ECDがミュージシャンでありラッパーである側面と、書き手として『失点・イン・ザ・パーク』など本の執筆・上梓をしているクリエイターです。

『失点・イン・ザ・パーク』では初めてできた彼女との出来事とアル中になった生活、どうしようもないどん底の状態を書き綴った内容で、お酒に溺れた事がある人や入院、精神的にも、経済力的にも辛い状態がある方は、理解(あえて共感とは書きません)できると思います。

文体も、エッセイ感もあるのですが、どちらかという文芸小説感があって、夏の暑い日の出来事や愛猫との暮らし、そしてそこに伴う心情が、読んでいる方も苦しくなる作品でした。

本作は、書き慣れたのもあるのか、自身や家族のことを俯瞰で綴っており、それが読者に与えていた窮屈さから解放された気がしました。

しかし、それだけならただの日記なんですが、ECDの執筆力の凄さと衝撃的な出来事のマッチング具合が高みへと昇華しているのです。

弟の死、父の病気、母の思い出

きっかけはは弟の自死です。基本的に何不自由なく暮らしていたであろう、三男の弟が突然亡くなり、同居していた父親の精神的なストレス、伴う病気、看病するECDの姿と、時折思い出す母親のこと。前半は3軸を主に展開していきます。

なので、ECDも書いていますが、「父親に取材だと思って聞いてみよう」と、どこか本のネタのために書き綴っている所があったのでしょう。

取材記事のように淡々と進む出来事や、紐解かれるエピソードに読者以上に驚くべきが、シンプルに落とし込んでいるのは流石の一言(それが執筆力の賜物なのか、元々の胆力かは不明ですが)。

余談ですが、文章を書くことは、出会った出来事や起きてしまったエピソードを感じ取る力と、考える思考力がまず必要です。次にそれを描写、具体化する文筆力。最後に、読み手に伝えることができる描写力や感動を起こす表現力の3段階が必要になります。

2つ目まではでき、ライターやウェブライター、ブロガー、アマチュア評論家になれますが、3つ目がないと、ヒットメーカーにはなれません(プロになれません)。

2つ目ができなくても、文章を書くのではなく、作曲したり音楽を作ったり、写真を撮ったりと、別の形で創ることができる人もいるので、書物に拘る必要はありません。が、モノづくりには必要なスキルであり、才能でもあるのです。

ECDの闘病

前半は、上記の通り、突然の弟の死による家族の変化を中心に描いていましたが、後半はECD自身の病気について書き連ねています。

突然ガンになり、闘病生活や入退院、家族のあり方など、よる内面に潜る描写が増えていきます。

ECD自身は、家族で一体化ではなく、個としてのあり方。次女が「迷惑じゃない?」と確認しつつも自分の要望も口に出す性格と、それすらも口に出さない姉妹のキャラクター性。さらに、そんなワガママを口にする妹の方が可愛く感じる、と。

でも、これって恋愛や結婚生活でも同様といえるじゃないかな。

出来の良い優等生よりも、ある程度ワガママを言う方が可愛げがあり、愛情が増すのと。

よく言われているのが、「自分がそこまで好きじゃない相手にはワガママも言えるし、口を開けて『アハハ』と笑うから、相手からしたら一層魅力的に映る。しかし、相手のことが好きだと、行儀よく粗相しないようにと、飾った自分でいてしまうため、相手からは面白みのない自分物に映る」。これと同じことが言えるのではないかと読みながら感じました。

まあ、ECDの場合実の娘だから愛情がないわけではないけど、娘たちが成長して、本書を読んだらショックを受けるんじゃないかと、他人のことながらヒヤヒヤしました。

まとめ

とりとめないレビューになってしまったけれど、本作が面白くないわけではなく、グイグイと引っ張られていく、読み物の強さがありました。

だけど、突き抜けた感動や発見がある内容ではないため、自分は好きだしECDの本を読み続けたいと思ったけれど、他者はどう読み取るのか、また面白いと感じるのか、もしくは、不誠実な家族関係だ、と憤慨するのか、判断はできなかった。

今の自分のメンタル的には、客観的に読めたけれど、人によっては引っ張られてしまうかもしれないから、読むならフラットな状態が良いかもしれません。

一言、まとめで言うなら、家族も人生も一筋縄ではいかない。と思いました。

難しいね。

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