『誰にも奪われたくない』本の感想、レビュー、あらすじ、ネタバレ

書評

『誰にも奪われたくない』とは?

『誰にも奪われたくない』とは、芥川賞にノミネートされた作詞家でもある児玉雨子氏による短編小説です。2021年7月30日に河出書房新社より出版されました。

どんな内容?あらすじは?

『誰にも奪われたくない』は、会社員として働きながら作曲家として2足の草鞋を履いている主人公女性と、作曲をしたアイドルグループの一人の少女との交流によって紡がれた物語です。

『スクラップ・アンド・ビルド』のような現代的な純文学で読みやすくておすすめです。

ネタバレ

主人公のレイカは、銀行員として会社員をしながら副業で作曲家としても活躍している。活躍といっても、それだけで食べて行けるわけでなく、コンペに勝ち抜いてやっと採用されるかどうか。

「シグナルΣ(シグマ)」というアイドルグループの佐久村真子と仕事を通じて出会い、最初はLINEのやりとりから、自宅へ免れてピザを食べたり、「どうぶつの森」ゲームをしたりと、知り合い以上友達未満の関係が続く。

物がなくなっていく

そんなレイカのもとで、リップクリームがなくなったり、iPodsのワイヤレスイヤホンが紛失したりと、物がなくなることが増えていった。

物に執着しないレイカは、あまり気にもとめずにいたが、ある日SNSで真子を検索したところ「盗撮」というサジェストから、真子らしき人物がコンビニで万引きをしている姿が盗撮されネットで出回っていることを知った。

ほのぼのした「あつまれ どうぶつの森」が凍える

遠隔でチャットをしながら、「どうぶつの森」で遊んでいるレイカと真子。

ゲーム内チャットで「盗撮」についてレイカが尋ねた瞬間、ほのぼのとしたゲーム内が凍りつく。

ここらへんの描写はとにかく絶妙。

ゲームのほのぼのとした絵面と、その裏に潜む人間の闇。その闇によって覆われていく描写は、文学として一級の面白さを持っていた。

結末

最終的に、真子はやはり万引きをしており、アイドルグループも脱退することに。真子はレイカにだけ盗んだ物を返却した。

レイカにとっては気にもとめていない物たちが戻ってきた。

それよりも、真子がなぜ自分にだけ返してくれたのか。

そんな思いに駆られながら、ある日同僚から説教をされ人生について、自分の人生が奪われていくのがわかり、物よりもそこに込められた思いのほうが、重要だと、気づく。

まとめ

人間関係の距離感を絶妙なタッチで描いた純文学。表層的にはアイドルの大変さと切なさを淡々と描きながらも、誰かが誰かに対して思う感情は、逆にいうと、人から「奪う」感情に近いのかもしれない。

そんな裏テーマがしっかりと書かれていてとても面白かったです。

また、後半には『凸撃』と題し、そんなレイカの同僚林を主人公にした奪う側の視点も描いており、表裏一体の作品で納得感が高まりました。

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