『パリの砂漠、東京の蜃気楼』とは?
『パリの砂漠、東京の蜃気楼』とは、『蛇にピアス』ですばる文学賞、芥川賞を受賞した金原ひとみ著書。2020年4月28日に株式会社集英社より出版されました。
どんな内容?あらすじは?
『パリの砂漠、東京の蜃気楼』は、フランスに滞在していた金原ひとみ本人が、フランスそして東京での生活をもとにしたエッセイ風の小説です。
パリ編は、ミルフィーユ、カニキュル、スプリッツ、ミスティフィカシオン、シエル、エグイユ、メルシー、ジュゾランピック、アボン、プリエル、ガストロ、ピュトゥ。
東京編は、カモネギ、おにぎり(鮭)、玉ねぎ、フェス、ラーメン、牡蠣、修行、未来の自分、グループライン、母、アマゾン、フランス。
とそれぞれ12編で構成されています。
『成り上がる女の法則』や『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?経営における「アート」と「サイエンス」』のような作品です。
ネタバレ
本書はいわゆる、エッセイ風小説のため、内容自体に驚きの展開や描写がされているわけではないです。
24編を淡々と読むことができるので、電車の中やスキマ時間の暇つぶしに読むのにちょうどよい構成となっています。
金原ひとみの筆力
けれども、金原ひとみの筆力は圧巻。とにかく文章の表現力が素晴らしく、息を飲み込むように「はっ」とさせられます。
例えば、好きなバンドのフェスに行けることで喜んでいる若い女性マッサージ氏との会話から、
「小説に救われ音楽に救われ何とか生きてきた。そしてこうして藁をも掴むように言葉や音楽から力をもらい息をつなぐ人たちがたくさんいるのだという事実こそが、星を見失ったとしてもどこかへ立ち向かう力を与えてくれるような気がした」
など、この一文の素晴らしさよ。
他にも、
「最後に一杯となみなみ注いだワインを持って再びソファに横になる。きっと明け方目を覚まし、もう飲む気になれないなみなみ残ったワインを見つけて、結局この最後の一杯は飲まないのにいつまでもこの最後の無駄な一杯を注いでしまう己の不条理さに辟易するのだ。最後に一杯と注いで明け方シンクに流してきたワインは、もう何本分になっただろう」
など、冗長的ではなく、詩的で「スーッと」入り込んでくる文章でありながら、たしかに心に突き刺さるワーディングに驚きとドキドキが止まらない。
まとめ
芥川賞を受賞した時には、最年少受賞ということで、綿矢りさの『蹴りたい背中』と同受賞でした。当時自分は、綿矢りさの行間から醸し出される空気感と、なんともいえない喪失感と青春の青さがたまらなく好きで、ハマっていました。
逆を言うと、金原ひとみの『蛇にピアス』は、パンチの効いた描写や表現に頼っているようで文章力というよりもインパクトという印象でした。
月日が経ち、本作を読むと、インパクトな表現よりも大人の哀愁さを上手に描写していて、文字通りオトナになった読み物へ昇華していたのに驚きです。
もしかすると、綿矢りさは若さの青さを、金原ひとみは背伸びした大人っぽさが持ち味で、時間と共に追いついてきたのかもしれません。
ぜひ、こんな時代だからこそ、人生に悩んでいる人に読んでほしいおすすめの一冊です。
ただし、問題や悩みは解決しません。