『パリ、嘘つきな恋(Tout le monde debout)』とは?
『パリ、嘘つきな恋(Tout le monde debout)』は、2019年にフランク・デュボスクによる脚本・監督・主演を務めた大人のフレンチコメディ映画です。相手役のフロランスを演じたアレクサンドラ・ラミー(Alexandra Lamy)はグローブ・ドゥ・クリスタル賞を受賞しました。
どんな内容?あらすじは?
フランク・デュボスク演じる主人公のジョスランは、大手スポーツシューズメーカーの支店長務める成功者。ひょんなことから隣人女性の姉で車椅子生活をしているフロランスと出会うが、亡くなった母親の車椅子に乗っていたことから、咄嗟に「自分も車椅子生活」であると嘘を付いてしまう物語。
『アスファルト(Asphalte)』や『恋愛小説家』のような映画です。
ネタバレ
一見すると軽薄かつライトな作品ですが、物語が進行するにつれてただのコメディでなく障がい者と健常者の違い、ジェンダーなど、現代社会でも話題や問題となっているポイントを抑えた良質な大人のコメディドラマに昇華しているのが素晴らしいです。
嘘はいつバレるか
本作『パリ、嘘つきな恋(Tout le monde debout)』の見どころは、ジョスランのついた嘘がいつバレるのかという点と、ジョスラン自身が嘘をつくために車椅子を借りたり利用する際に、健常者なら困らない箇所を、重くならないほどにユーモアに見せてくれます。
最終的に、嘘をついていたことをフロランスは始めから気がついていたのですが、「恋愛を楽しませてくれた」と、その嘘を知ったうえで、障害者である自分を女性として実直に好意を示してくれたことを喜んでいたのです。
「嘘」を扱った映画や作品って世の中に色々溢れているし、嘘自体の善し悪しも人によって考えが変わりますが、嘘には、相手のことを思って付いた白い嘘と、騙したり悪さをするためについた黒い嘘があり、本作は白い嘘を題材とした作品といえるでしょう。
もし、嘘を付かなかったどうだったろう?
フロランスは引け目を持って、ジョスランに接していたかもしれないし、
ジョスランは知らず知らずのうちに、フロランスに優位な自分を示していたのかもしれない。
相手のことを思いやることで、立場や状況、痛みを理解でき、対等になれたのかもしれませんね。
上手な演出
さらに、本作を盛り上げてくれるのが要所要所での演出シーンです。
例えば、プラハへ出張へ行き、車椅子同士で屋外レストランで食事をするシーン。
健常者同士なら普通のやりとりなのに、車椅子ならではの不便さを上手に醸し出しつつも、逆に車椅子であっても、歌ったり盛り上げたりできるなど、楽しさを分かち合うシーンや、
ホテルまでフロランスを送り、部屋に行く前に帰るジョスラン。
ホテルの玄関の前で外が雨であることを知ったジョスランは、一度車椅子から立ち上がります。
外の雨を眺めて、そのまま車椅子を置いて歩いて自分のホテルへ戻ることもできるのに、ジョスランは、愛着を持った車椅子を置いて帰れないと、また車椅子に乗り雨の中ホテルへと帰っていくのでした。その姿を部屋から眺めているフロランス。
ここまでのシーンを、セリフなく、それぞれの後ろ姿で表現しており、鳥肌が立つほど感動しました。
沈みゆくテーブル
他にも、ジョスランの邸宅に招かれたフロランス。車椅子に乗りながら屋外のテーブルで食事をしていると、ジョスランの演出で敷いてあった床が沈みゆき、フロランスの赤いドレスが水いっぱいに広がるというニクいロマンチックな演出が見事!
頭上から俯瞰で撮影していて、その綺麗さといったら!
まとめ
軽い気持ちで観た映画でしたが、思いの外感動し、また良作に出会えて嬉しかったです。
ひとつが、嘘。
ひとつが、障碍者であること。
ひとつが、ユーモアとロマンチックな演出。
この3つのトロイカが光る素敵な映画でした。
家族や恋人、友達と一緒に観られるおすすめ作品ですよ。