『小さいおうち』とは?
『小さいおうち』とは、作家中島京子の執筆で小説。直木三十五賞を受賞した作品を元に、山田洋次が監督を務め映画化されました。主演は、松たか子。助演の黒木華は第64回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞の銀熊賞を受賞しました。
どんな内容?あらすじは?
『小さいおうち』は、1930年昭和初期を舞台に、女中のタキがストリーテラーとなって物語が進行していきます。
タキは、東北の山形出身。当時の農村では、口減らしとして奉公や女郎として出される中、東京の小説家の家に女中として勤めることに。その後松たか子演じる時子の住む平井家で働くようになります。
当時では珍しい赤い屋根のオシャレでスタイリッシュな小さなおうちで働くなかで、見聞する出来事を、晩年期のタキが思い出しながら執筆しました。
『ココ・アヴァン・シャネル(Coco avant Chanel)』や『セザンヌと過ごした時間(Cézanne et moi)』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生(The Curious Case of Benjamin Button)』のような映画となっています。
ネタバレ
本作の主な出来事としては3つ。タキが女中としてやってきて、女中の仕事っぷりや家の中でとりまく出来事を丁寧に紹介する冒頭エピソード。
長く仕える奥様の時子と旦那の部下である板倉との不倫関係。
そして、戦争で散り散りになった一家を大甥が現代と紡ぐラストのエピソード。
この3つがメイン軸となっています。
黒木華の演技力
全体として衝撃的な展開があるわけでもなく、昭和初期の裕福かつ性格的にも優しい人々に囲まれて過ごす女中としては恵まれている人生を過ごすタキを、演技力に定評がある黒木華が丁寧に演じているのが見どころのひとつ。
女中として、主役にはならず主人や奥様を影で支え、主張しすぎない姿。それでも微かな存在力を出し、人間としても魅力的に描かれています。
もちろん、優雅でありながらも優しさをまとった松たか子の陽なキャラクターがあるからこそ、呼応するのです。
この二人の関係性に加えて、吉岡秀隆演じる柔軟な板倉の存在と、その二人の不倫関係に、胸騒ぎするタキの心模様が手に取るようにわかるため、鑑賞者は飽きることなく映画を観ることができます。
手紙の行方
これは完全にネタバレになりますが、最後に板倉が出征する前に、松たか子演じる時子は、急いで彼の元へ行こうとします。悩み悩んだ末に、奥様を止めて、その代わりに手紙を書くように頼み、その手紙を持って、板倉のもとへ届けるのです。
しかし、板倉は家に訪れることなく、永遠の別れとなるのですが、ラストに実はこの手紙をタキは渡さなかったのでした。
それは、二人のことを想っての行動なのか、時子もしくは板倉に向けた恋心故の行動なのか、誰もわかりません。
晩年期のタキに大甥が聞いても、号泣するばかり。
その後、時子と旦那様が東京空襲で防空壕で抱き合ってなくなっており、息子の恭一のみ疎開していたおかげで、一命を取り留めたのでした。
まとめ
最後にどんでん返しのように、訪れた真実。時間が経ったことで知られる事実。
本人こそ晩年期になり、目も見えず足も動かせない姿になった恭一が言うのです。
「この歳になってまさか母親の不貞行為を知るなんて……時効であるけれど」、と。
たとえ時効であったとしても、事実としてはキツい話でもあります。
しかも、その最後の逢引すら、信じていたタキの手によって食い止められていたのだから。
タキの起こした、罪。もしかすると許されることではないのかもしれません。
小さなおうちの小さく温かい家庭で起きた悲しい物語。
これが全てです。何かを感じたい方におすすめの映画です。